男はつらいよ 寅次郎真実一路

昔懐かしいサラリーマン生活がヴィヴィッドに画かれて居た。茨城県下の田園都市から毎朝東京の会社に通う富永健吉(米倉斉加年)。帰宅は何時も深夜に及ぶ。息子の養育は妻に任せきりだ。
そんな夫に何一つ文句も言わず、毎朝朝食を作り送り出す妻ふじ子(大原麗子)が居た。私のサラリーマン時代も富永家と酷似していたので、思わず感情移入してしまった次第である。
ただ富永家と当家の違いは、夫が蒸発しなかったこと。無論私も四十数年の期間には「会社を辞めたい」と何度思ったことか。何とか耐えられたのは妻の助力によることが多い。
だから、健吉を何と弱い男と思う反面、ふじ子への同情が沸々と湧く。憲吉の蒸発原因が描き足りなかったのが、返って其の念を深くさせたのは怪我の功名か?。
寅さんもふじ子に同情した。彼の純粋な心と行動は神の領域に近い。「夫の上司と言えばいいでしょう」との、ふじ子の言葉に意を決して二人旅する車寅次郎。
それでも二人の宿には気を憚ってタクシー運転手の家に泊めて貰う純情味にホロッ。その裏面でサラリーマン経験のない寅さんの部長ぶりには爆笑。
話は変わるが、新婚間もないタコ社長の娘あけみ(美保純)が対照的に描かれている。そのため、ふじ子の貞淑ぶりが余計引き立って見えた。なかなか上手い演出と感じる。
三年近く前、不遇の死を遂げた大原麗子さんに想いが馳せた本編であった。
渥美清さんの面影にも少し窶れた様子を感じたのは、多分私の気のせいだろう。神の国に召されるまで未だ一回りの歳月があったのだから。
【私の評価】佳作。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→②。
1984年(2012/7/6TV録画観賞=再見).日(松竹)[監督]山田洋次[撮影]高羽哲夫[音楽]山本直純[主な出演者★=好演☆=印象]★渥美清。★大原麗子。津島恵子。辰巳柳太郎。★美保純。★米倉斉加年。倍賞千恵子。前田吟。吉岡秀雄。下条正巳。三崎千恵子。太宰久雄。笠智衆。佐藤蛾次郎。[上映時間]1時間47分。