スリ

1931年のアメリカ映画「民衆の敵」の主役トム(ジェームス・ギャグニー)は、生まれながらにして人生の裏街道に生きる宿命を背負って居た。これと同じように、ミシェルも掏摸の道に走る運命を背負っていたのだろう。
競馬場に始まり競馬場で終末を迎えるこの映画も、藻掻けども、焦れども、どうにもならぬ悲しい性から脱却出来ぬ人間を描き切る。
イタリアからイギリスへ。2年に及ぶ掏摸の旅からパリに戻ったミシェルが見たもの。それは父なき子と暮らすジャンヌだった。
彼の心中にはかってジャックと三人で楽しんだ遊園地が浮かんだに違いない。
道徳的には如何にも善人ぶっていたジャックの方こそ罰せられるべきだろう。
現実にはミシェルが宿す業の罪に罰が待っていた。
面会所の固く冷たい格子を挟む二人。その表情は、長い回り道の末に辿り着きたいゴールが写っているように見えた。
地味ながらも素人の出演者が素晴らしい。この映画を観ていると、俳優の演技との差とはいったい何なんだろう?と、一瞬思えて来る。
かってドストエフスキーの「白夜」を、ルキノ・ヴィスコンティ監督と競演し、ロマン漂う互角の映画に成し遂げたロベール・ブレッソン監督は、ここでもドストエフスキーの「罪と罰」を意識した、情感籠もる作品に創り上げている。
「罪を憎んで人を憎まず」の格言が、暗闇の中からほんのり浮かび上がってくるような映画である。
【私の評価】秀作。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→②。
1960年(公開)(2011/9/20TV放映観賞=再見).仏[監督]ロベール・ブレッソン[撮影]レオンス=アンリ・ビュレル[音楽]ジャン・バディスト・リュリ[主な出演者★=好演☆=印象]マルタン・ラサール。マリカ・グリーン。ピエール・レーマリ[原題]PICKPOCKET[上映時間]1時間16分。
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