十二人の怒れる男(ブログDEロードショー参加)

【①.面白い映画だった】
白人男性陪審員のみだった此の映画の時代から社会は大きく変遷した。女性も参加の裁判員制度が酣の昨今である。そのような背景からも再見の価値はある作品だった。以前「不真面目な陪審員が多い」理由で評価せぬ方をお見受けした。それはそれでいいと思う。が、様々な個性と職業を持った人の中から選出された陪審員であることは論を待たない。この映画を観る人それぞれの個性も当然異なるように。
ところで、人間の性格には仕事派と人間派があるとして、この映画の陪審員の分析をした事がある。仕事に対する情熱、素質、成績といったものをを縦(Y)軸に、人間味ある暖かさ、他人への理解、思いやりといったものを横(X)軸に採ってグラフを作るのだ。
当時の分析結果は忘れた。それで、今回再見を機会に改めて分析したのが下記画像である。見事にポジションが散らばって居る。

いったい何が言いたいのかと言われそう。それは、個性が異なる12人の陪審員だからこそ、この映画を面白く作り得たと思う次第だからである。その事は、漢数字をアラビア数字にしただけの「12人の怒れる男」(2007年.ロシア映画)も面白かった事からも証明される。なお、12人の分析事由は下記の要約による。
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◆陪審員番号/名前(職業)/印象に残った発言や行動の要約。
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◆1番陪審員:マーティン・バルサム(フットボーメコーチ).

投票制を発想。提案。実施。目に余る3番陪審員の発言行動に毅然たる態度を採ったこと。
◆2番陪審員:ジョン・フィードラ(不明)

初めての体験なれど、当初は「なんとなく有罪」と述べる。ナイフの傷跡に着目。
◆3番陪審員:リー・J・コップ(宅配員)

冒頭発言は「眠っていた。弁護しても無駄」。個人的事情による独断と偏見。5番陪審員に誤解を詫びた率直さ。討議中に12番陪審員とゲーム。屁理屈屋。
◆4番陪審員.:E・G・マーシャル.

(株の仲買人)冷静沈着なれど、当初の自己主張の裏付けに拘る。箇条書き風の説明。頑固。偏見。
◆5番陪審員.:ジャック・クラグマン(スラム街出身)

冒頭「意見がないから、パスしたい」と発言。飛び出しナイフなら傷口の角度が逆だと説明。3番目に理由を述べず無罪表明。
◆6番陪審員:エドワード・ビンズ(労働者)

「考え事はボスがする」。時刻を間違える8時→7時。一度だけパスする。「動機が重要」との意見を一度述べる。
◆7番陪審員:ジャック・ウォーデン(行商と言った様な気が?)

ナイターだけ気になる不真面目な男。「ガムは?」と気前はいい。「みんな話した」から理由はない。「めんどくさいから」という理由で、5番目に無罪と発言。
◆8番陪審員:ヘンリー・フォンダ=デービス(建築家)

「私を除いた投票で1人でも無罪投票なら論議を続ける」という決断力。同形のナイフを自分のポケットから取り出す周到さ(ちょっと出来過ぎと感じはしたけれども)。見取り図等による説得力。

◆9番陪審員:ジョセフ・スゥイー=スカードル(老人)

思考力は稍乏しいようだけど、正義感を持っている感じ。「勇気ある発言」と8番陪審員を誉める。4番陪審員の眼鏡の跡に着目する。
◆10番陪審員:.エド・ベグリー.(不明)

発言順を乱す。最後の3人の有罪派の一人。頑固。偏見。
◆11番陪審員:ジョージ・ヴォスコヴェック.(時計職人)

メモをとる。4番目に無罪表明。思考力あり。少年が犯人なら、なぜ捕まるとわかっている自宅に帰ったのかと疑った。民主主義の素晴らしさを述べる。
◆12番陪審員.:ロバート・ウェッバー.(広告業)

真剣味乏しく雑談多し。有罪無罪を繰り返す曖昧さ。討議中に3番陪審員とゲーム。
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【②.人道主義と勇気と社会正義感が迸る想いだった】
9番陪審員がこう話すショットがある。「全員有罪判定の中で、一人だけ無罪主張するということは、なかなか出来る事ではない」と。
四面楚歌の中で出す勇気の難しさと大切さを思い知らされた。最高の仕事派であり、優れた人間派とも言える8番陪審員を通して、横溢する人間の尊厳と、社会正義感には唸るものがあった。
シドニー・ルメット監督は更に、11番陪審員を通じて民主主義の啓蒙を吐露させているのだ。
【③.豊富なアイデアに参った】
全員一致が必要という条件を課して、8番陪審員が、如何にして1対11から、12対0に逆転するかを最大の見所にした、法廷映画特有の推理サスペンスモードも面白さに加速度を付けた。殆ど総てが陪審員室内に徹した密室的魅力も見逃せぬ。これは正に、完全に近い負け試合を奇跡的に逆転した、満塁さよならホームランといえる。
なお、パソ通時代に、ディベートが流行った。この映画は、その面白さも発揮している。
【④.撮影が素晴らしかった】
冒頭の裁判所入口。目線を上に向けたカメラ・アングルは威圧感を表現して秀逸。

陪審員室内は、上から、下から、陪審員の視線の高さで。ロング・ショットに、ズーム・アップ。あらゆるカメラ・アングルを駆使し、エアコンどころか、扇風機さえ回らぬ暑苦しくて、狭い室内を舐め尽くして居る。
あまりに暑くて明ける窓。室外の雨。それが見事な伏線とは。
俯瞰で撮ったラストの石段。陪審員室でのあ雨は上がっていた。モノクロならではの強コントラストの光と影。一件落着の喜びが溢れるよう。

同じシドニー・ルメット作品「評決」でも、感動的な雪のボストン市街が美しかった(撮影=アンジェイ・バートコウィアク)。この映画に於けるポリス・カウフマンの腕の冴えも特筆もの。
【私の評価】私には「12人の愛すべき男」にも写った秀作中の秀作。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→①。
製作1957年.日本公開1959年(2011/12/2.DVD観賞=再見).米[監督]シドニー・ルメット[撮影]ペリス。カウフマン[音楽]ケニヨン・ホプキンス[主な出演者★=好演☆=印象]①☆マーティン・バルサム。②☆ジョン・フィードラー。③★リー・J・コップ。④☆E・G・マーシャル。⑤☆ジャック・クラグマン。⑥エドワード・ビンズ。⑦☆ジャック・ウォーデン。⑧★ヘンリー・フォンダ。⑨☆ジョセフ・スゥイーニー。⑩☆エド・ベグリー。⑪☆ジョージ・ヴォスコヴェック。⑫☆ロバート・ウェッバー[原題]12 ANGRY MEN[上映時間]1時間35分。
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【⑤.映画と直接無関係の私のひとりごとです。できればパスして下さい】
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この映画を観ると何時も思い出す。1967年2月17日。サラリーマン時代に幹部職昇進研修合宿の際、この映画のシナリオを渡されたことを。人間の性格は、仕事派と人間派がある。仕事に対する情熱、素質、成績といったものをを縦(Y)軸に、人間味ある暖かさ、他人への理解、思いやり度といったものを横(X)軸に採る。そして12人の陪審員の個性を分析した上、それぞれがどの辺りの位置に在るか。更に自分自身の位置もどの辺か分析せよ。といった類だった。
8番陪審員はX軸、Y軸ともに高い数値を示した。こういう人はA型と称し、社会的に優れた人間だそうである。4番陪審員はY軸に高くX軸に低い位置を示した。B型と称する。どちらも普通のタイプはC型。B型と総体的な人はD型。どちらも低い人はE型と称した。これは、ブロガーにも適応し得る要素を秘めているとも思った。
因みに私は4番陪審員と相対的な位置だった。(後日談)以後、私はY軸上のポイントを上げるべく努めた。
この映画は私のその後の人生に少なからざる影響を与えてくれたと思う。反面その後、映画を見る余裕を奪われた。1960~1990年の30年間は観賞本数が極減している。これも経済高度成長期に生き残る為には止むを得ないことだったと思ってはいるが、、。
茲までお読み頂いた皆様に感謝します、と共に、誤字脱字があるかもしれませんので、ご容赦下さい。
---The End---
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