男はつらいよ 寅次郎子守唄

盆と正月には必ずと言っていいほど映画館に看板がかかった寅さん映画。当然ながら夏と冬のシーンが多い。今回は冬。この回からおいちゃん役が下条正巳に替わる。この三代目おいちゃんが最終回まで務める事になる。
「子守唄」という副題は唐津の出来事で名付けられた。見方を変えればこの第14作の主役は赤ん坊かもしれない。因みに赤ん坊の名は内村友志。
様々な地方色を楽しめるのもこのシリーズの特徴。唐津の祭は地方色が豊かで雄壮だ。
「みっともないこと…」(と誤解)の言葉に、寅さんの怒り心頭。「へんなこと言うじゃないのおばちゃん」。「トラ、お前はそれでも父親か」。拍車を懸けたおいちゃんだったが、やっと誤解は溶ける。「このオレと見比べてみよ」の寅さんの言葉に、口から爪楊枝をぽろりと落とすタコ社長が傑作。
「この男悪い所なんてありゃしない」に返ってくる「頭以外はね」も得ていて妙。「雨降って“痔”固まる」が笑わせる。“もう”木曜日とタコ。“まだ”木曜日とトラ。これ即ち、色と金の相違なり。
前作「恋やつれ」では泣かされたが「子守唄」では大いに笑わされる。人間は感情の動物。喜怒哀楽の繰り返しが人生なのだ。
月亭八方が赤ん坊を引き取りに来る。「帰したけど良かったね」。言葉とは裏腹に、今迄赤ん坊の面倒をみてきたおばちゃん。無言の演技が燻銀の光を放つ。「八日目の蝉」を思い出した。たとえ、養う義務のない子でも、日々の世話を通じて愛情が湧いてくるというものである。
寅さん映画は、“泣き笑い”の人生以外に、“愛”を中心に、人間と人生を考えさせても呉れる。人間は考える葦であると。只の喜劇でない所以が此処にある。と、私は思う。
赤ん坊が縁で寅さんと親しくなる看護師のマドンナ十朱幸代さん。前々作のマドンナ岸惠子さんより10才若い。未だ活躍中のようだが、映画の主演的作品は余り記憶がない。この作品では溌剌としている。
1958年のNHKTVドラマ「バス通り裏」が強印象。当時まだ白黒テレビだった当家のブラウン管でも若さと明るさが発散していた。
この映画の観客動員数も、岸惠子マドンナの「私の寅さん」と比べても94%と遜色ない。
正にトラさん映画は、年に2度、確実に稼いでくれる松竹のドル箱だった。が、裏を返せば、それほど当時の日本人に愛されたということにもなる。
【私の評価】喜劇としても一流の佳作。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→②。
1974年(2012/2/18TV録画観賞=再見).日(松竹)[監督]山田洋次[撮影]高羽哲夫[音楽]山本直純[主な出演者★=好演☆=印象]★渥美清。☆十朱幸代。月亭八方。春川ますみ。上條恒彦。倍賞千恵子。前田吟。下条正巳。★三崎千恵子。太宰久雄。笠智衆。佐藤蛾次郎[上映時間]1時間44分。
なお、私事都合により明日より来月上旬頃まで出没しません。
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