武士の家計簿

猪山直之もし現世に在りせばAIJ不正も防げた。と思わせるような映画だった。五玉が二つある算盤に、時代考証の確かさを感じる。鶴亀算のエピソードに新鮮な雰囲気を感じる。
現存する資料に基づいた話だけあって如何にも素朴にして地味。されど二度三度写される散りゆく花の華やかなこと。昨年末61才の若さで散った森田芳充監督の遺作は、何時しか舞い散る小雪に変わる。

直之は嫁いで来る齣に「貧乏は嫌か」と質す。齣に扮する仲間由紀恵は応える。「工夫だと思えば佳いです」。 これが、動乱の幕末に、真面目に、実直に生き抜いた猪山一族を描くテーマとなった。
頑固一徹の男、直之に扮する堺雅人。つい最近放映されたドラマ「塚原卜伝」では、その終始微笑をたたえたような眼が少々違和感だった。今回は適役を得て好演の部類。
仲間由紀恵も水を得た魚のようで、一際目立つ存在。もともと派手派の松坂慶子も今回は可成り抑えた演技だ。おばばさまの草笛光子は年輪を重ねた風格を宿す。直之をケチにした元凶のような父、信之に扮する中村雅俊も齢を重ねた渋さが出ている。なかなかの助演陣である。

その一方で、直之の厳しい教育に反撥する息子直吉(八木凱斗=好演)との、父子鷹にも似た生き様が素直な好感
を呼ぶ。
これが“工夫する算盤”とは別の、親。子。孫。三代に亘る家族愛の大黒柱ともなっている。
「父親に負ぶって貰った事など一度もない」と思っていた成之(伊藤祐輝)=成人後の直吉だったが、実はそうではなかったのだ。
鮮やかに甦る伏線が見事の一語。よくぞ纏まった秀作と思う所以でもある。
この映画を通じ教えられたものがある。それは現在のエコ活動にも通じる心がけ。“工夫”と“ケチ”は違うのである。
「家族ゲーム」や「阿修羅のごとく」も印象強く残ります。森田芳光監督様、安らかにお眠りください。合掌。
【私の評価】秀作。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→①。
2010年(2012/3/26TV録画観賞=初見).日(アスミック・エース=松竹)[監督]森田芳光[撮影]沖村志宏[音楽]大島ミチル[主な出演者★=好演☆=印象]☆堺雅人。★仲間由紀恵。☆松坂慶子。☆草笛光子。☆中村雅俊。西村雅彦。★八木凱斗。伊藤祐輝。[上映時間]2時間9分。
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