菊豆(チュイトウ)

この映画は次の2点で優れていると思う。
その一つは、色彩の用い方の上手い事。
チャン・イーモウ監督は3年前のデビュー作「紅いコーリャン」で、赤一色が続く画面で目を点にさせた。今回は強烈な青で悲恋を浮き彫りにさせる。
青と共に強印象を残すのが赤と黄色。染め物の赤は二度に及ぶ悲劇を。黄色は物欲の金を強調して余り無い。
これら色の三原色に続き、更に白色で人生の終幕にレクイエムを送る。見事である。
映画は映像の芸術。光と影でテーマを強調させたモノクロ時代からカラー時代に入った時、「やはりモノクロでなければ…」という声も屡々聞いた。が、チャン・イーモウ監督は、カラー画面を芸術の域に持ち上げた功労者の一人ではないだろうか。
二点目は、適切な言葉に苦しむけれども、赤裸々に不倫を描く中にも、人間の業を美化せしめた昇華力。とでも表現したい。
菊豆の「天青あなたも殴るのね!」は男の性に対する痛烈な批判。「何故天白が口を利かぬ」は、金山にも三分の利の認識?。
そんな中で菊豆と天青の悲劇に、熱き想いがヒシヒシと迫り来たる。
所謂悲恋ものは、「野菊の如き君なりき」や「近松物語」で見事に美化され昇華されて居るが、「菊豆」もそれらに優るとも劣らず。
フィルム・ノワールに名画が多いのは何故か。悪の映画だからワーストという事はない。そこに悪に潜む善を見いだすから。所謂不倫ものに名画が多いのも事実。不倫だといって貶すばかりが能ではない。そこに“愛の正義”を見出すから。
【私の評価】秀作。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→②。
1990年(2012/5/24TV録画観賞=初見).中/日(大映)[監督]チャン・イーモウ[撮影]クー・チャンウェイ/ヤン・ラン[音楽]チャオ・チーピン[主な出演者★=好演☆=印象]★コン・リー。★リー・パオティエン。☆リー・ウェイ。チャン・イー。☆チェン・チェン[原題]菊豆,JU DOU[上映時間]1時間35分。
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