海炭市叙景
2010年[監督]熊切和嘉[出演]小林薫。中里あき(他)

冒頭、函館の街並みと分かった。一度行っただけだけど、印象深い街だった。
映画では海炭市という架空の街に設定。其処に暮らす人々の叙景をオムニバス風に描く。
第1話。
親を亡くした兄妹の話。働いて来た造船所でリストラに遇う兄。
進水式風景が強印象なのは、その空しさから来るためだろう。函館山の日の出と共に、秀逸な撮影である。
妹だけケーブルに乗せ、自らは歩いて降りるという兄。運賃が不足。何と侘びしい。何と悲しい。その兄戻らず。
第2話。
市街化計画が進む中、只一軒の見窄らしい家屋が目立つ。
猫を抱き、悠然と煙草を吸う老婆。立ち退きを説得する孫にも応ぜず。公然と言い放つ。「何時死んでもいい」。
日没が美しいのは、夕日に染まる老婆の手の甲の皺にあり。長年働いて来て、刻み込まれた手の皺に。
第3話。
著名俳優の出演が僅かな中で、小林薫と南果歩が演ずる夫婦仲は冷え切る。
妻不貞の中で、寒々と写るプラネタリウム。屋外の積雪の冷たさよ。
第4話。
ガス商売不振。夫が妻に暴力。妻が子供に暴力。痛ましい妻と子よ。
第5話。
市電の運転手の父親は、本土から戻った息子を目撃する。が息子は再び本土へ。
全話に共通するは、不幸な家庭。努力すれども成果出ず。世の中に嫌気指す。人の人生。苦しき事のみ多かりき哉。
でも我々は生き抜かねばならぬ。
最も印象に残ったのは第2話の老婆。著名俳優の如何なる名演をもってしても、あの手の年輪の無言の演技には及ばない。
それは、八十路前後の彼女が今まで懸命に生き抜いて来た証拠であり、証明であり、勲章だから。
彼女が立ち退きを拒否する事を批判する権利は無いと思う。
それは彼女が培ってきた人生観の上に立脚した考えであり、思想であるから。
異論も存在するだろう。それはそれで価値ある思考。
此の世に哀しい事は、正義は人の数だけ在る事だ。
久し振りに、映画らしい映画を見た。

冒頭、函館の街並みと分かった。一度行っただけだけど、印象深い街だった。
映画では海炭市という架空の街に設定。其処に暮らす人々の叙景をオムニバス風に描く。
第1話。
親を亡くした兄妹の話。働いて来た造船所でリストラに遇う兄。
進水式風景が強印象なのは、その空しさから来るためだろう。函館山の日の出と共に、秀逸な撮影である。
妹だけケーブルに乗せ、自らは歩いて降りるという兄。運賃が不足。何と侘びしい。何と悲しい。その兄戻らず。
第2話。
市街化計画が進む中、只一軒の見窄らしい家屋が目立つ。
猫を抱き、悠然と煙草を吸う老婆。立ち退きを説得する孫にも応ぜず。公然と言い放つ。「何時死んでもいい」。
日没が美しいのは、夕日に染まる老婆の手の甲の皺にあり。長年働いて来て、刻み込まれた手の皺に。
第3話。
著名俳優の出演が僅かな中で、小林薫と南果歩が演ずる夫婦仲は冷え切る。
妻不貞の中で、寒々と写るプラネタリウム。屋外の積雪の冷たさよ。
第4話。
ガス商売不振。夫が妻に暴力。妻が子供に暴力。痛ましい妻と子よ。
第5話。
市電の運転手の父親は、本土から戻った息子を目撃する。が息子は再び本土へ。
全話に共通するは、不幸な家庭。努力すれども成果出ず。世の中に嫌気指す。人の人生。苦しき事のみ多かりき哉。
でも我々は生き抜かねばならぬ。
最も印象に残ったのは第2話の老婆。著名俳優の如何なる名演をもってしても、あの手の年輪の無言の演技には及ばない。
それは、八十路前後の彼女が今まで懸命に生き抜いて来た証拠であり、証明であり、勲章だから。
彼女が立ち退きを拒否する事を批判する権利は無いと思う。
それは彼女が培ってきた人生観の上に立脚した考えであり、思想であるから。
異論も存在するだろう。それはそれで価値ある思考。
此の世に哀しい事は、正義は人の数だけ在る事だ。
久し振りに、映画らしい映画を見た。
スポンサーサイト