狐の呉れた赤ん坊

これは終戦の年に撮られた映画というのが強印象。どうしても思いは終戦前後に翔ぶ。
♪~エンジンの音~轟々と~隼は行く~雲の果て~(以下略)♪。今も忘れ得ぬ「加藤隼戦闘隊」の歌詞。同名の映画を見たのは1944年8月30日。この年に見た映画はこれっきり。
翌1945年。終戦後最初に見た映画は「最後の攘夷党」(監督:稲垣浩)。墓前で自刃しようとする嵐寛寿郎の姿が今も焼き付く。共演している笠智衆の名は当時露知らず。
他にこの年に見た映画は「東京五人男」のみ。「狐の呉れた赤ん坊」は勿論、黒澤明監督の「續姿三四郎」もTV放映鑑賞。リンゴの唄でお馴染みの「そよかぜ」は未見。
「狐の呉れた赤ん坊」を見ていて思った。活動写真と呼んでいた戦前は、起承転結の4区分に則った作風が多かったように思う。
クラシカルな和風音楽が目立つこの映画もその例に漏れない。4楽章形式のクラシック音楽にも少し似ているかな?。
‘起’第1楽章。導入部だ。
大井川で客を運ぶ張子の寅八が、狐退治に出かけた筈が、赤ン坊を拾い育てる羽目に。
「チャップリンのキッド」をモデルに、テンポは急だ。
‘承’第2楽章。緩やかだ。
酒も喧嘩も止めた寅八は、善太の病を救わんと名医を呼びに幾数里。無法松を思わす盛り上がりを見せる。
やがて風格宿す餓鬼大将に成長する善太で、緩やかなテンポで終わる。
‘転’第3楽章。華麗な舞だ。
♪下に~下に~♪が第1主題を奏で、善太の身代わりを決心する寅八の行動が二人を救う。
やがて証される善太の真実。激しく踊るような舞曲は終わる。
‘結’第4楽章。威風堂々だ。
「善太のためにもう一度死ね」助言に目覚める寅八よ悲し。
第1主題の♪下に~下に~♪が再現される鮮やかさ。
第2主題は大井川の川越え人足。スクラム組んで客運ぶ。
肩車で渡る父子鷹。父も名優なら、子も血筋の良さの片鱗覗く。
活動写真の粋を見た。
↓ひとりごと
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