チャイコフスキー (1970年)ソ連

その国家誕生直後に有名な「戦艦ポチョムキン」を創り、その後重厚な「オセロ」や「戦争と平和」を生んだソ連映画であるが、これは著名音楽家の伝記映画。
総体的に伝記映画は面白味に欠けるものが多いが、この作品も可成り固く暗く重い。
メック夫人の献身的援助だけが救い。ピアノ協奏曲を巡る師匠との葛藤。歌手との悲恋。その後の結婚と離婚。といった中で、作曲は昔の手法に戻れず。新しい道も開けず。
悩みの中から生まれた交響曲第六番。私はこの曲が好きだ。独身時代、クラシック喫茶によく行った。そして何度となくこの曲をアンコールした。コーヒー一杯で1~2時間粘った。
この曲を聴いているうちに、仕事で疲れた神経も、そのうちに癒えていったものだ。この曲には静かな深い悲哀感のようなものが漂っているのかもしれない。でもそれよりも私にはロマンティックな気分の方が優っている。

第1楽章の情熱的で甘美な旋律に、心が洗われる想いに耽っていると、突如金管の鋭い音に脅かされる。一度、カー・オーディオでこの曲をかけていて、この箇所で思わずハンドルを取られそうになったことを思い出す。
この曲は絶対に車を運転しながら聴くような曲ではない。静かな場所で疲れた神経を癒やす曲である。楽章の最後は弦のピチカートと快い主題が続き、やがて緩やかに約18分の演奏が終わる。
第2楽章はどこはかとなく、ロシア民謡の匂いが漂って来る。民族衣装も華やかにロシア女性が手を組み合って踊っている感じ。でもどこか不安な感じが付きまとう約8分半だ。
第3楽章はスケルツォ(速い3拍子)と行進曲が複雑に交錯する11分だ。金管と弦の歯切れ良いリズムが快く感じる。
そして第4楽章に入る。普通は第2楽章に多いアダージョ(ゆるやかに)だが、このシンフォニーは画期的にも、この最終楽章に採り入れている。
一人、雪山の頂を見つめつつ、もの想うような深い情感が、次第に高潮していく様は正に圧巻。やがて「悲愴」感を漂わせながら、静かにこの曲を終えて行く。何度聴いても聴き飽きない名曲だ。
1893年11月6日。日本人の心にも深く食い込む数々の名曲をこの世に残して、感傷派の巨匠、チャイコフスキーは、この曲を遺作にしてもの静かに消えていった。
交響曲第6番・ロ短調・作品74「悲愴」。私はこの曲を愛して止まない。
後半は、図らずも自己の趣味に深入り。独断と偏見に満ちた記事になって終ったが、クラシック・マニアには一見の価値ある映画ではないだろうか。
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