南の島に雪が降る (1995年.日本)

小津安二郎監督の遺作「秋刀魚の味」に秋刀魚は出て来ない。でも私には眼には見えねど秋刀魚の匂いが漂って来る。それは岸田今日子が営む小さな酒場からも。
かっての上官笠智衆と此処を訪れた加東大介は、岸田が応ずる軍艦マーチに陶酔する。其処に到底演技とは思えぬ姿を私は見た。宜成るかな。彼は太平洋戦争下死線を越えて来たのだった。
其処から生まれたこのリメイク作は、彼自身も出演したオリジナルには及ばぬものの、隣国との間に不穏な空気が宿る今日、改めて不戦の決意を固めさせるに足る内容を宿して居た。
先月末日地元英霊鎮魂祭後に特別上映された本作。観客は僅か30人程度だったが、全員胸を掻き毟しられる2時間14分だった。南の島に降る雪は、悲痛な鎮魂の雄叫びを残して消えて逝った。
映画的には、あの戦時下の最前線で、どうしてあのような装備や什器備類や被服類を調達出来たのか?との疑問や違和感は残る。
然し乍ら須藤と村井中尉の対決は、そんなものは屁理屈だと、吹き飛ばせるに足る鬼気迫る終幕であった。
今年もまたあの12月8日が巡って来る。
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