淡島千景さんを偲ぶ

淡島千景さんが出演された作品中のMy No.1作品は、友楽大劇で1955年9月25日に観た「夫婦善哉」。感想(上り画像)は、“本年度のナンバーワンとの呼び声も高いこの作品に接し、流石だと思った”に始まり、“殊に森繁久弥の自然なセリフ、淡島の熱演と相まって、只素晴らしいだけでは表現できぬ好作品となっている”と絶賛している。

その5年前「てんやわんや」でデビューされてより、2009年「春との旅」まで60年間の出演本数は150本を超えるだろう。私は40本前後鑑賞していると思うが、その中から「夫婦善哉」以外の10本を簡潔に述懐し、この大女優を偲びたい。
①「波」(1952年)=湘南の海岸だと思う。浜辺に寄せては返す波。佐分利信と、過ぎし日を振り返りつ、想う行く末に“人生の何たるか”を考えさせてくれた。
②「君の名は 第1部」(1953年)~第3部(1954年)=華やかな岸惠子と対照的な役割で主役を立てる中にも、その存在感は抜群だった。
③「にごりえ」(1953年)=夜の帷が下りる。雨戸を閉め「今夜は帰さない」と迫る{菊の井}の売れっ子おりき。発散する艶っぽい色香よ。
④「君美しく」(1955年)=意中の人を諦めてまで母弟妹を支える女性に扮する。熱演の主役だったが、価値観が一変した現在。自己犠牲精神の讃歌は、今の人には理解し得ないかもしれぬ。
⑤「残菊物語」(1956年リメイク)=「夫婦善哉」の翌年4月25日に同じ劇場で鑑賞している。島耕二演出は悲恋に重心が傾き過ぎたが、懸命にお徳を演じたその熱演は、今も脳裏から離れない。
⑥「大番 完結篇」(1958年)=“淡島千景は今脂が乗りきった頂点に居る。今度の「鰯雲」に期待しよう”と、当時の手記。
⑦「螢火」(1958年)=主役の登勢に扮した淡島千景。その“健気さ”が今も印象を宿す。
⑧「鰯雲」(1958年)=シナリオも読んだ数少ない作品の一つ。冒頭とラストの鰯雲の演出にケチを付けてはいるが、広がり行く鰯雲をバックに、田を耕す彼女の姿は今も強印象。
⑨「妻として女として」(1961年)=大学講師森雅之の妻を演じる。銀座のバーのマダム高峰秀子を交えた、三人三葉の主張が、まるで言葉の格闘技だった。
⑩「GOING WEST 西へ・・・」(1997年)=淡島千景さん主演の晩年のロード・ムービーに、晩年の寅さんが覆い被さってきた。
合掌