男はつらいよ 寅次郎頑張れ!

幸子は秋田を出て柴又の大衆食堂で働く薄幸の娘。扮する大竹しのぶが発した言葉に凛となる。
「もう泣くの止めたの」。
身内の不幸に見舞われ続けた彼女がそう決心したのは、育ててくれた祖母の言葉だった。
「自分の不幸など人は分からんと、一人で怒り、嘆き、泣いてばかり居ても、人はあんたを嫌うだけ。避けるだけ。誰も分かってくれないよ」。
そうなんだ。私も昨年そのことを身を以て体験した。こんなことを言ったらお叱りを受けるかもしれないけど、東北の不幸な方々の中にも同じようなことを味合われた方が居られるかも?と推察したりもした。
それでも結論は、幸子の祖母が言う通り。たとえ心の重荷は一生背負おうとも、人はプラス思考で前進あるのみと。
この台詞一つで、この映画を見た値打ちがあった。
そんな彼女と良介の仲を取り持つ何時もの寅さんが愛おしい。良介に扮する中村雅俊。心ならずも、とらや二階爆発事件の発火源となるのは大袈裟だが好演。爆発といえば、お芋の煮っ転がしと、がんもどきの好きな寅さんの「アイスクリーム…ねじりうんこ」にも爆発。

亮介の姉藤子(藤村志保)とのロマンスは平凡なれど、平戸島周辺の撮影は美しい。それは単なる表面的な景色の美しさではない。地元に定着したキリスト教の匂いがそっと漂う地味な美しさにある。
音楽も佳良だ。“シューベルトの冬の旅/菩提樹”の素晴らしいこと。
【私の評価】可成りの意欲ある佳作。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→①。
1977年(公開)(2012/3/24TV録画観賞=再見).日(松竹)[監督]山田洋次[撮影]高羽哲夫[音楽]山本直純[主な出演者★=好演☆=印象]★渥美清。藤村志保。★大竹しのぶ。☆中村雅俊。倍賞千恵子。前田吟。三崎千恵子。太宰久雄。笠智衆。佐藤蛾次郎。桜井センリ。米倉斉加年[上映時間]1時間35分。