桜田門外ノ変

【1】この映画の構成を大別すると、
①事件が生じた原因や背景。
②事件そのものの描写。
③事件後の余録。
に大別されるだろう。
更に此の映画に、二つの特徴を感じた。
(A)通常は①②③の順で展開すると思われるところを、大筋から眺めて見ると、②が最初に現れる事。
(B)話の比重が③である事。である。
上述の中で、特に(A)に違和感を覚えた。フラッシュ・バックとフラッシュ・フォワードの頻発が、私にとっての要因。
事改まって言うまでもなく、フラッシュ・バックとフラッシュ・フォワードは、重要な映画表現上の技法。ただ、①②③を骨格にして用いれば佳いのだが、私には②①③が骨格に見えたのである。
例えば、/事件/現在(桜田門)/事件/事件の7年前(黒船浦賀来航)/事件後/事件の2年前/といった具合で、私の鈍いテンポ頭脳では順応出来なかった次第。
(B)については、目的を果たした後の遁走劇に、何故あれだけ長すぎる上映時間に繋がるような描写を続けたのだろうか?と思う。
この事件は、その性格は違えど、赤穂浪士の復讐劇に似た面も持ち合わせている。赤尾浪士の潔さと、つい対比する一瞬もあった。
【2】井伊大老の落命場面は、「わが命つきるとも」のトマス・モアのその瞬間を思い出した。どちらもリアルで後味の悪い描写だから。
邦洋を問わず最近の映画の特徴は、特に、
①殺伐な場面。
②官能的な場面。に於いて、思わず「其処まで描くか」と感じ入る。
敢えて芸術的とい言わせて貰おう。昔の映画は、
①では死刑シーンは(殆ど)見せない。
②では直接描写は無かった。
現在はどうか。
①では血しぶき挙げて首が転がる。
②ではその必要性を認めないケースでも、見てくれと言わんばかり。
これらが現在社会の凶悪犯罪を助長していないと誰が言い切れるだろうか?。と、思わず独り言が出てしまった次第。この映画もまぁ、血血血に終始する。

【3】そのリアリティが、大道具や小道具類では見られなかった。
張りぼての石垣や、石。等々。
特に障子紙は時代考証が不足。あれは平成の障子紙だ。昔は大面積の障子紙は無かった。幅は精々30㎝。それを下から貼り、桟で合わせ切り、上方へ繋ぎ貼りしたものである。なお、下から貼るのは、繋ぎ目に埃が溜まらぬためである。
【4】最後に、テーマ。
冒頭、勤王攘夷と大写しされるから自ずから分かるが、徳川斉昭の意を呈した水戸脱藩浪士目線で描く。従って井伊大老は完全な敵役。
忠臣蔵の、赤穂市と吉良市が和解したように、彦根市と水戸市もそのようになったと洩れ聞く現在。多少違和感めいたものを感じた。これでは時の流れに逆行するではないかと、、。ただ単に事実を描いた。という見方も出来るけれども。
兎に角、感動が湧かなかった。例えが悪くて申し訳けないが、泥棒にも三分の理。という諺もある。現在で言えば、TPPを実現させようとした井伊に対し、それでは我等が…と、敵対した水戸派閥から見た格闘劇であった。 久方ぶりの辛口になってしまった。私の独り言としておく。
【私の評価】意欲ある力作なれど…。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→③。
2010年(2012/4/TV録画観賞=初見).日(東映)[監督]佐藤純彌[撮影]川上皓市[音楽]長岡成貢[主な出演者★=好演☆=印象]大沢たかお。長谷川京子。☆柄本明。伊武雅刀。北大路欣也。生瀬勝久。渡辺裕之。加藤清史郎。坂東巳之助[上映時間]2時間17分。