第三の男

一昨年(1952年)日本公開のベストピクチャーとして名高い「第三の男」が、去年(1953年)のベスト1映画「禁じられた遊び」と共に、今日(1954年1月27日)セントラル劇場で封切られたので見に行く。
タイトルでツィターという古い楽器が奏でるテーマミュージックが素晴らしい。画面一杯、横一線に張られた20本ぐらいの楽器の弦が、音楽に連動して揺れる。しかもそのメロディーは、その後の映画の展開に連れて、要所要所で或いは強く、或いは緩やかに、実に効果的に流れることになる。
第2次世界大戦終了直後、米英ソ仏4カ国の管理に分割されていたウィーンに、作家のホリー・マーチンス(ジョセフ・コットン)が、「仕事がある」と言う友人のハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)を訪ねてやって来る。ところが来てみると「ハリーは交通事故で亡くなった」と聞く。
目撃したクルツとホペスクは、もう一人の第三の男とで死体を運んだという。埋葬に参列した人の中に居たアンナ(アリダ・ヴァリ)はハリーと恋仲だった。国際警察のキャロウェイ英国少佐(トレヴァー・ハワード)から「ハリーは、多くの死人を出している水増しペニシリンの密売者」と聞いたホリーは、真相を探りたいと第三の男を探すことになる。
と言ったわけで、廃墟のウィーンの夜景が可成りの時間を割いて撮影されている。その一つ一つのショットは、光と影のコントラストが美しい。また斜めの背景や、俯瞰的な構図も素晴らしく、まるで名画を見ているようである。そのような中で、突然ハリーが画面の右側に現れるショットには、高鳴る音楽効果もあり、思わずドキッとする。
ホリーは遊園地の観覧車の中でハリーと会うが、ハリーが現れると鳴るテーマ音楽、仰角に観覧車を写す撮影の効果的なこと。後は、下水道でのクライマックスに向かって一気に流れ込む。全ては終わった。林道の彼方から歩いてきたアンナは、ホリーに一瞥もせず、無言の儘通り過ぎて行く。
【追記】このシーンを古今東西で最高のラストシーンと思っている私は、当映写室のシンボル的写真とさせて頂いている。【←過去に書いた記事】