裏窓

この映画はキラキラ光る宝石箱だ。ルビーのように真っ赤に染まる"覗き趣味"。ダイヤモンドのように鏤めた素敵な"セリフ"。エメラルドの緑に輝く"恋心"。オパールのような"ユーモア"。真珠のように可愛い"小道具"が詰められている。ヒッチコック独特の"スリル&サスペンス"は差詰め青いサファイアか。
オマケもある。紫煙るアメシストの中で隠れん坊している"ヒッチコック監督自身を見つける楽しみ"も、、。オープニングからして洒落ている。煉瓦立てのアパート。三つの窓が順に開き終わると、カメラは中庭を挟んで対面の窓にバンする。誰の心にも潜んでいる覗き趣味を利したこの発想は驚愕の至り。ジェフが覗いている視野で観客も眺める俯瞰が奇抜だ。
ミス・ロンリー孤独の乾杯に、ジェフも覗きながら乾杯するショットには思わず笑ってしまった。映画を観ていても余り笑わないこの自分が。バレリーナも肉体美を披露して呉れ退屈はしない。犬が非常階段を上っていくが、これが後で重大な役割を演じるなど心憎い演出だ。カメラは一室の裏窓に固定しただけ。それでこの面白さ。ヒッチコックの非凡ぶりが伺える。
怪我で車椅子のジェフ(ジェームズ・スチュワート)は、裏窓からこのような風景を眺める生活。毎日やって来る看護師ステラとの会話も楽しみだ。ジェフがカツレツを食べている時に、ステラが細切れ殺人の話を持ち出すところなど吹き出す。「サンドイッチに常識を挟んであげるわ」等、洒落たセリフで、リザ(グレース・ケリー)との関係が明らかになるところも実に巧い。
リザは実にエレガントに登場する。ジェフの背後に人影が映る。黒の上衣に白のロングスカートは気品に充ちる。グレース・ケリーは後にモナコ王妃となる。悲劇の死で人生を終えるが、本当に天才は夭折するなぁ。閑話休題。「殺人を防ぐ目的でも覗きはいけないか?」と、思わずジェフが漏らすショットがある。
こうして刑事コロンボ風に、犯人を追いつめていくジェフだが、「あの男一人だけ窓を開けぬ。"知りすぎていたから"」とか「待って、もう少し"暗くなるまで"」の字幕は洒落すぎ。もっとも1955年3月29日に映画館で観た時は、こんなスーパーインポーズは無かったけど。
殺人者ドイルの部屋へ忍び込み発見されたリザに続いて、発見されるジェフだった。フラッシュで防衛するジェフを犯人側から見た映像は鋭い。フラッシュと言えば、双眼鏡、望遠鏡カメラ、時計などの小道具類が活躍する。特に華氏95℃前後を指す寒暖計が数度登場し、蒸し暑さを実感させる。
「何故このアパートの住人は斯くも開放的なんだろう?」と一瞬思ったけど、そうか、暑さで窓を開けなきゃならなかったんだ。エアコンの無い時代だもんね。最後にオマケのヒッチコックおじさん探し。めつけ~!裏窓から!