京都太秦物語

過去を思う事は有意義。それに立脚して現在と将来を考える縁になる。といった視点から今の世界に眼を転じ、2010年の映画を観る。
戦後一変した価値観。昔のいい面を多く失った。反面昔に無かったいい面も多く得た。昔のよかった面だけは心に抱きつつ、今の世を歩みたいと思う昨今である。
これは長年寅さんを撮り続けて来られた山田洋次監督が、今の世を真摯に捕らえた作品。三人の若人の心理描写に、現代感覚を垣間見る。
特に対照的な康太と大地。二人の青年の狭間にあって、揺れ動く京子の心理が新鮮に描かれている。
シーンとシーンの繋ぎに登場する嵐電が懐かしい。京都四条大宮と嵐山を結ぶこの路線。沿線の嵯峨野にあった保養所で、友と共に仕事の疲れを癒し青春を謳歌したものだった。
この映画の背景は、同じく沿線にある太秦。今は東映映画村のみ存在しているが、かっては「羅生門」や「雨月物語」「近松物語」などの名作を生んだ大映撮影所もあった。
この映画でも、その頃を懐かしむ地元の方の述懐が繁く出てくる。この映画を監督と協同した、地元大学の映像学を学ぶ学生の映画魂も垣間見られて若々しい。