あ、春 1998年(公開99年)

病院の屋上で車椅子に乗った笹一(山崎努)が船乗りの歌を唱う。
“♪~うちには大事な嫁が居る~嫁より大事な親も居る~”
ちょっと異論が出そうな二行目の歌詞、これが此の映画の重要なテーマと思う。
歌を聴いた紘(佐藤浩市)は思わず叫ぶ。
「オレ、やっぱりあんたのガキだ!」。
冒頭部分の伏線が胸の透くように活かされていた。
映画の中に敷かれる伏線は作品全体に潤いを与えるが、その使われ方が巧緻だと印象度がより高くなる。
このことは、冒頭部分で幼い矮鶏の死骸を焼いた笹一の遺体から、矮鶏が誕生するラストにも云えること。
「お引越し」でも感じたが、相米慎二監督はカメラワークが巧い。作品レベルも初期の「セーラー服と機関銃」「魚影の群れ」「台風クラブ」等に比べると、この作品や、前述した「お引越し」。それに20世紀末の作品「夏の庭」は、隠れたる秀作と言えば過言だろうか。存命ならば21世紀も幾多の秀作が生まれただろう。天才の夭逝が惜しまれる。
「あ、春」は、「あ、父子鷹」でもある。