夏の庭 (1994年)

人は必ず死ぬ。その時を誰も知らない。が順当なら歳の順。多くの人が楽しみに待つ7年後の東京オリンピック。「見られるかな」と不安げな八十路の私が居る。
これは荒れ果てた家屋に住む老人、喜八の孤独死を見詰める。
子供目線から眺めているのが特筆。三人の子供達の悪戯心が、次第に老人との愛に変りゆく描写が自然で佳良。
荒れ果てた庭に咲く秋桜の何と美しいことか。そこには決して見掛けだけの美ではない、廃屋を綺麗にしようとする三人の心が宿っているから。
それは、歩んで来た自己の人生を打ち明ける喜八に変貌させる。またそのことは、彼の死は決して孤独ではなかったことに通じた。「お帰りなさいまし」棺の喜八に頭を垂れる弥生の慎ましさよ。
弥生を演じる淡島千景。喜八に扮する三國連太郎。そして演出した相米慎二。かっての名優そして名監督。皆此の世に居ない。合掌。