お引越し

「お引越し」という題名一つ採っても、いやに考えさせる映画だ。確かに冒頭附近で引越し風景はあるが、これだけでの題名とは到底考えられない。エンディングで成長したレンコの姿に、それを繋ぎ合わせたりしてみた。
彼女がラストで10回近くも叫び続ける「おめでとーございます~」の意味は何か。
それは果たして、波間に沈みゆく両親の幻想を眼に写し、幸せだった過去の自分に対して叫んだ言葉だったのだろうか?。私は、両親の復縁を信じての言葉に聞こえた。
何とならば、それは、「大波小波をするには縄が短い」という母に、「繋いだらえぇ~」と即座に応える彼女のいじらしさに通ずるからである。

「セーラー服と機関銃」(81)で、薬師丸ひろ子に「快感~!」と叫ばせた相米慎二監督。この映画では、娘レンコに扮した新人、田畑智子に逆立ちをさせる。歌手から女優転換後、泣かず飛ばずだった桜田淳子も、見違えるような母親ナズナに成長させている。
レンコは、ナズナが父ケンイチに離婚届を渡さないように隠す。そしてナズナが壁に貼った二人の約束事を護った後で、貼り紙を引き裂く。
両親の不和の狭間で揺れ動くレンコの健気さに喝采を贈りたくなった。

思わず映画「古都」を想起する祇園祭。大文字焼きのワン・カット一つにも情感が掻き立てられる。それは疎水周辺のロング・ショットを経て琵琶湖に繋がる。此処でも繰り返す激震のようなジャンプ・カットが、ファンタスティックな世界に導く。
相米慎二監督。「台風クラブ」(85)でも感じた。キャメラ・ワークが巧い人だ。と。映画でしか表現出来得ぬ武器を100%発揮している。50歳代での夭逝が惜しまれる。合掌。
【私の評価】紛れもない秀作。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→②。
1993年(2011/10/13TV録画観賞=初見).[監督]相米慎二[撮影]栗田豊通[音楽]三枝成章[主な出演者★=好演☆=印象]中井貴一。☆桜田淳子。★田畑智子。森秀人。笑福亭鶴瓶[上映時間]2時間4分。