秋刀魚の味

「おかあさん」(成瀬巳喜男監督=1952年)から10年経っている。「最早や戦後ではない」という言葉が使われ出して相当経過していた筈。それども未だ人の手を介して結婚する風習が残っていた。
(父=笠智衆)「風呂あるか?」。(娘=岩下志麻)「今日は沸かさなかった」。というような会話が飛び交う時節でもあった。まだ毎日入浴する生活レベルに達していなかった。銭湯も繁盛していた。冷蔵庫が普及し出した頃というのも此の映画で分かる。

その裏で核家族化が深く静かに進行していた。長男夫妻(佐田啓二&岡田茉莉子)も団地に住む。「できないようにしてるの」小津流官能の素晴らしさを、直接描写しか知らぬ監督は勉強して貰い戴い。と言いたくなって来る。
トリスバーが懐かしい。流行っていたなぁ。昔を偲び軍艦マーチに陶酔する加東大介。加東に和して敬礼する岸田今日子。好演の助演陣はまだ居る。「ハモという字は魚辺に豊と書く」ヒョータン老先生の東野英治郎。逸した婚期にそっと眼を拭う杉村春子。みんなみんな「演技をするな」(自然に演じよ)を主張する小津学級の優等生だ。

「よかった良かった。一度会って呉れるね?」「下でお茶でも飲もうか?」と装甲を崩す笠智衆は言うまでもなく級長の主役。角隠し姿の娘の挨拶を手で制する父の背中にはホロッとさせられる。
「お葬式?」「まぁ、そんなものだよ」。秋刀魚の味とは、こんなものかも。物静かな余韻を棚引かせつつ、昭和の名匠、小津安二郎の遺作は終わる。
今日(2011/10/26)の朝ドラ「カーネーション」で「おとこまえ」という台詞を聞いた。昭和初期だから当然だが。今は「イケメン」。でも今年の甲子園お立ち台で「男前の○○です」という声を何度も聞いた。昭和は今も息づいているのだ。
平成は昭和の基礎の上に成り立っている。昭和の映画を無視して、平成の映画を語り得ぬ。と私は思う。
【私の評価】秀作です。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→①。
1962年(2011/10/24TV録画観賞=再見).日(松竹)[監督]小津安二郎[撮影]厚田雄春[音楽]斎藤高順[主な出演者★=好演☆=印象]★笠智衆。岩下志麻。佐田啓二。岡田茉莉子。☆北竜二。中村伸郎。★東野英治郎。★杉村春子。★加東大介。★岸田今日子。三上真一郎。吉田輝雄[上映時間]1時間53分。