十三人の刺客

オリジナルは未見であるので何とも言えぬ。けれども「それを超えているかもしれないなぁ?」と、想像させるに足りる充実した内容である。
13人vs200余人の死闘は、「これぞ時代劇の醍醐味」と堪能させる。その長い長い死闘シークェンスの合間で、いろんな時代劇の名場面がシャボン玉のように浮かんでは消えた。
水戸黄門の定番ラストシーン。赤穂浪士。曾我兄弟。高田馬場。らの仇討ち場面。川中島の合戦。衣川の戦い。……etc.etc.
ただあまりにも長すぎた。「もういいではないか」と思わせた。だけど、社会正義に充ち満ちる胸の透くクライマックスが、そんな思いも消し去って呉れたようだ。
随所で、黒澤明監督「七人の侍」(→以下、前者と称する)を想起させる。
①侍を集めるエピソードが似る。
②集まった侍。前者の七人が、十三人に増えたに過ぎぬ。
③小弥太は、前者の菊千代そっくり。
④島田新左衛門は、前者の勘兵衛である。
⑤三人と二人の違いこそあれ、生き残った人間が居る。等々。
無論、何から何までそっくりという訳ではない。相違点はある。
①目的が違う。前者は村民を護る。後者は馬鹿殿様の暗殺。
②従って、題名の“侍”という呼び方は、“刺客”という呼び方に変わる。
③果たしてこれが、前者ではさほど見られぬ、残酷にして過激な描写に通じているのだろうか?。
④前者に劣るもの。馬の使い方。後者には西部劇を思わせるような前者の、臨場感や迫真力は無い。

それでも、前者では見られぬ佳いところも有してた。
①「侍はなんでそんなに偉そうなんだ」の台詞に代表される下克上からの目線。
②「死が近づくと生きることに感謝が生まれる」の台詞に代表される人間を見詰める真摯な眼。
③「政を行う者に都合良く。下僕は云々」に代表される、古今東西変わる事のない世の中への痛烈なる風刺。
④「下が支えてこそ上がある」の台詞が訴える人間社会の真実。
⑤馬鹿殿様に忠節一筋の侍に垣間見るマインド・コントロールの恐ろしさ。等々。

殊に、トップシーン。ラストシーン。の印象付けの巧さは群を抜く。ネタバレになるので書かないが、あれは通常のラストでは無い。これはあらゆる事物を満載した時代劇百貨店だ。
よって、【私の評価】これぞ秀作。
【私の好み度(①好む。②好む方。③普通。④嫌な方。⑤嫌)】→①。
2010年(2011/10/30TV録画観賞=初見).日(東宝)[監督]三池崇史[撮影]北信康[音楽]遠藤浩二[主な出演者★=好演☆=印象]★役所広司。山田孝之。☆伊勢谷友介。松方弘樹。☆稲垣吾郎。平幹二朗。伊原剛志。市村正親。松本幸四郎[上映時間]2時間21分。